「ただいまぁ」
ドアを開けると
めずらしく母がまだいた。
「おかえり」
キッチンに立って
何か作っている。
あたしはその匂いで
ちょっとだけ幸せな気持ちになる。
「まだいたんだ」
「あら失礼ね。
いちゃ悪いの?」
「いや、いつもより遅くない?」
「私が遅いんじゃなくて
ユウが早いんでしょ」
時計を見ると
確かにいつもより早い。
――今日は病院の屋上に
そんなに長くいなかったからか。
「あ、肉じゃが?」
母の後ろから
鍋をのぞきこむ。
「そう。
ユウ好きでしょ?」
「うん」
小学生の頃はこうして
店に行く前に夕食の支度をする
母のそばにまとわりついて
学校の話をたくさんしていた。
毎日。
いつからだろう。
そんなこと
しなくなったのは。
でもあたしは相変わらず
母の肉じゃがが好きだし
母のことも、
嫌いじゃない。
「肉じゃがに入ってる白滝って
美味しいんだよねぇ」
あたしがそう言うと
「あらやだ。
メインはじゃがいもでしょ」
と母が言った。
「肉じゃないの?」
「あ、そうねぇ。
肉がメインなのかしらねぇ」
「まぁどっちでもいいけどさ」
「白滝じゃないのは確かね」
「あははは」
あたしは
この肉じゃがを
今日もひとりで食べる。
なんか少しだけ
少しだけ、だけど
せつなくなった。
やっぱり
母が仕事に行ってから
家に帰ろう。
最初からひとりなのは平気。
でも
ふたりからひとりになるのは
なんだかせつないから。
ドアを開けると
めずらしく母がまだいた。
「おかえり」
キッチンに立って
何か作っている。
あたしはその匂いで
ちょっとだけ幸せな気持ちになる。
「まだいたんだ」
「あら失礼ね。
いちゃ悪いの?」
「いや、いつもより遅くない?」
「私が遅いんじゃなくて
ユウが早いんでしょ」
時計を見ると
確かにいつもより早い。
――今日は病院の屋上に
そんなに長くいなかったからか。
「あ、肉じゃが?」
母の後ろから
鍋をのぞきこむ。
「そう。
ユウ好きでしょ?」
「うん」
小学生の頃はこうして
店に行く前に夕食の支度をする
母のそばにまとわりついて
学校の話をたくさんしていた。
毎日。
いつからだろう。
そんなこと
しなくなったのは。
でもあたしは相変わらず
母の肉じゃがが好きだし
母のことも、
嫌いじゃない。
「肉じゃがに入ってる白滝って
美味しいんだよねぇ」
あたしがそう言うと
「あらやだ。
メインはじゃがいもでしょ」
と母が言った。
「肉じゃないの?」
「あ、そうねぇ。
肉がメインなのかしらねぇ」
「まぁどっちでもいいけどさ」
「白滝じゃないのは確かね」
「あははは」
あたしは
この肉じゃがを
今日もひとりで食べる。
なんか少しだけ
少しだけ、だけど
せつなくなった。
やっぱり
母が仕事に行ってから
家に帰ろう。
最初からひとりなのは平気。
でも
ふたりからひとりになるのは
なんだかせつないから。


