前にもこんなことがあった。

忘れようとしても忘れられないあの事件……。


意識と無意識の狭間の中で、自分は考えていた。

あの時も今も……誰も救えないのに救おうとして、結局は全てを失う。


わかっていることは、自分が何のために生きているのか……何のために死の危機に瀕しているのか……わからなくなってきたということ。


自分はこれからどうすべきか……それを考えようとした時、誰かが自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた……。









「うっ……。」


聖河は小さな呻き声を上げて、ゆっくりと目を開く。

すぐに目に入ってきたものは、まばゆいばかりに辺りを照らし出す光と白い天井。



「あっ……目を覚ましたんだね、聖河君。」


「聖河……。」


「柚枝……梓……。」


自分の顔を覗き込んだ二人の女性の顔を、聖河は交互に見返す。


柚枝と呼ばれたのが、オレンジがかった瞳を持つ長い黒髪の女性。名字は橋口。

笑うとそれなりの美人であろうに、今は悲しげでやつれたような顔をしていた。