郁はケータイの画面を見つめたまま、口の左側だけ上げて妙な笑みを浮かべた。
「なんやねん……火槌はん……。ほんまに……なんや……ねん……阿呆……。」
肩をフルフルと震わせて小さく呟く彼女の瞳からは、大粒の涙がポタポタ流れ落ちていくのだった……。
「……。」
時神 火槌は電話を枕元にポイッと投げ捨て、仰向けにベッドに倒れ込んだ。
紫色の瞳はどこか遠くを見つめており、何も考えていないようなぼうっとした表情をしている。
「火槌様……もうお入りになってもよろしいですか?」
部屋の入り口ドアから初老の男性の声が聞こえてきた。
火槌がああと短く返すと、執事らしき男性が深々と礼をしながら入室する。
「……失礼を承知でお聞きします。電話の相手はどなたですか?」
「誰でもいいじゃねえか。第一、留守番電話サービスに繋がっちまったから、電話の相手とは一言も話をしてねえよ。」
「そうですか……。もしや、火槌様の想い人ではないかと思いましたが……。」
執事の推測に、火槌は目を伏せて押し黙る。

