同日の夜、宇津町家。
「ただいま、柳兄。……誰かと電話してるの?」
梓が帰宅すると、兄の柳都は居間で誰かと電話をしていた。
「はい、今のところは……順調です。そっちの方向で話を進めておいて下さい。」
「柳兄ってば!」
「うわっ!?あ、梓……。ま、また後日、かけ直します。」
背後から梓に声をかけられ、柳都は慌ただしく電話を切る。
彼の栗色の髪からポタリと冷や汗が流れ落ち、自分に聞かれてはまずいことなんだなと梓は瞬時に理解した。
「電話の相手……誰?仕事の話……?」
「えっ……ま、まあ、そんな感じだよ。そ、それより、何か用かな、梓?」
柳都は明らかに動揺していたが、なるべく自然な流れで梓に聞き返す。