「あっ……う、うち達は何も……。」


「た、たまたま通りかかっただけですよ……。」


二人のやり取りを見ていたのは、柚枝と雄河だった。

火槌は振り返って、藍色の瞳で二人をキッと睨み付ける。



「誰にも話すんじゃねえぞ。話したら……」


「話しませんよ。僕達が誰かに話したところで、得にはなりませんから。そうですよね、柚枝さん?」


「う、うん。」


柚枝が頷くのを確認すると、雄河は彼女の手を引いて再び歩き出す。



「待て。おまえら、此処梨の病室に行くつもりだろ?……俺様も行く。郁が忘れてった缶ジュースを持っていかねえとな。」


「それは構いませんが……そこ、片付けなくていいんですか?」


雄河はジュースが零れた場所を指差す。



「放っておいてもその内、清掃員が片付けに来るだろうよ。」


「いいのかな……?」


「細かいこと気にしてねえで、早く行こうぜ。面会時間が終わっちまうぞ?」


雄河と柚枝は尚も気にしていたが、火槌に強引に背中を押され病室へと歩を進めていくのだった……。