「もう一押しなのによ……じれってえな。」


「ほんまにあとちょいなんやな……。奥手に見えて意外とやるやん、聖河はん。」


そんな二人を茂みから観察する影が二つ。
郁と火槌である。

二人の手には双眼鏡が携えられており、芝生の上には集音器のような機会が置かれていた。



「あとは梓はん次第やな。オレとあんさんが手助けできるんもここまで……」


言いかけて、郁はハッと口を噤む。

胸の奥がズキリと痛むのを感じたからだ。



(何やろ、今の痛みは?変なもんでも食べたやろか……?)


「……だな、郁。」


「へえっ!?な、何か言ったかいな、火槌はん?」


間の抜けるような声を上げて聞き返す郁に、火槌はプッと吹き出した。