「好きなのは……?」
「……っ。何でもない!」
八つ当たりするように怒鳴ると同時に、梓はハンドルを思い切り右方向に回す。
「あ、梓!いきなり回すと危な……うっ!?」
コーヒーカップがグルグルと一気に五回転し、聖河は体勢を崩し三十度ほど横にズレた。
「コーヒーカップなんだから、回して回して回しまくる。」
「そんなに……回すと……っ……酔うぞ、梓。」
仰向け姿勢で両腕でカップの縁をガシッと掴んだ聖河の忠告を無視し、梓はどんどんハンドルを回す。
景色は目まぐるしく変化し、風が頬を刺していった。
「酔わない!……うっ。」
高らかに宣言した直後、梓は口元に手を当てて前かがみ姿勢になった。
顔は青白く、体が小刻みに震えている。

