「だって、コーヒーカップじゃムードの欠片もないじゃない。聖河は、乙女心が全然わかってない。」
「そうだな。自分には乙女心はもとい、女心は全くわからない。故に、知らず知らずの内に梓の心を傷つけてしまった。……反省している。」
「わ、私のことを例えみたいに持ち出さないでよね。」
捨てられた子犬のように、しゅんとした表情でうなだれる聖河に、梓は母性をくすぐられるのを感じた。
顔に赤みが発したことを隠すように、パッと聖河から顔を背ける。
「自分は……梓に幸せになってほしいと思っている。そして、梓を幸せにしてくれる人物は梓の兄だと考えていた。」
真ん中のハンドルをゆるりと一回転させ、聖河がポツリと言った。
梓は聖河の方にチラと視線を送る。

