夕方の宇津町家。
橋口 柚枝は、不思議そうに首を傾げて玄関のドアを見つめていた。
「誰も居ないのかな……?」
誰にともなく呟き、再度チャイムを押す。
ピンポーンとチャイム音が鳴り響いたが、待っても待ってもドアは開かない。
(二人で外食に出かけてるのかな?まあ、明日学校で会った時でいっか。)
そう自分を納得させると、梓に渡すはずだったお土産入りの小袋を鞄にしまい、柚枝は家の方へ帰っていく。
(帰ったか……。柚枝には悪いけど、今日は梓以外の誰にも会いたくないんだ……。)
離れていく足音を聞きながら、柳都はソファーに頭を埋めていた。
普段なら、二人分の料理を調理している時間帯だが、今日はどうにもそんな気分にはなれないのだ。
(梓……。自分でもわかっているんだ……僕は梓にとって兄以上にはなれないってことは。わかっているのに……)
諦めきれないんだと呟く柳都の顔は、苦渋の表情に満ちていた……。

