「郁っ!まさか、立ったまま気絶してんのかよ?戻ってこーい!」
火槌が彼女の顔の前で、何度か右腕を振る。
すると、郁はハッとしたように顔を上げて火槌をじっと見つめた。
心なしか、頬が赤い。
「おっ?やっと意識戻ったか?」
「何やねん、あんさん……。ほんま、何やねん!!」
突如、郁の右手が火槌の左頬を打つ。
パアンと響きのいい音が発せられ、たまたま公園の前を通った買い物帰りの婦人が驚いて二人を見ていた。
「いって……何しやがんだよ!」
「……わからへん。あんさんはなんで……?もう、帰るわ……。」
「郁……?」
郁は、頬を押さえて自分を見つめる火槌のポケットからケータイを奪うと、顔を伏せたまま走り去っていく。
「俺様の方が“なんで”だぜ……。」
火槌は郁の背中を、苦虫を噛み潰したような顔で見送ったのだった……。

