「残り一分……いや、四十秒……三十八秒だ。」
「なんや、それまであんさんと世間話しろ言うんか?そんなん、待ってられん!返してくれへんなら、力ずくで返してもらうで!」
郁は両手を固く握りしめ、ファイティングポーズをとる。
「力ずくで?面白えな……やってみろよ。」
「や、やってみてええん?こう見えても、本気になったオレは強いんやで!」
「ふうん?そいつは是非とも見てみてえな、郁ちゃん。」
何を言おうと、火槌は余裕の表情を崩さない。
虚勢を張った以上、引くに引けなくなった郁は、いくでと宣言してから火槌に向かって走っていく。
砂埃がパッと宙に舞う。
「だああ!!」
郁は威勢の良いかけ声と共に、火槌に飛びかかる。
右手で狙うは、彼の上着の左ポケットに入れられた自分のケータイ。

