「うーん……ここから飛び降りちゃおっかなって思ってる。……止める?」
「自分が止める義理は無い。好きにすればいいだろ。」
去って行こうとする青年を見て、梓は慌てて立ち上がる。
「待ってよ!まだ私の質問に全部答えてないでしょ!」
「答える必要が無いから答えないだけだ。」
「待ってってば……一人にしないでよ!」
青年の足がピタリと止まる。
「お願い……。」
聞こえるか聞こえないかの小さな声で言う梓を、青年は振り返って見上げる。
「此処梨 聖河(ここなし せいが)だ。家はここからはそう遠くない。歩いて十分ほどの距離にある。……これで満足か?」
「普通、こういう時は気の効いた言葉言うでしょ……。」
「訊かれたことを答えただけだが?」
ぶっきらぼうに返す聖河に、梓は妙な笑いがこみ上げてきた。

