未来のない優しさ

「今日役所に持っていくから。これで文句ないだろ」

看護師に悪気がないのも、自分がしなければいけない仕事をしているだけだって事もわかってはいるけれど。

救急車の中で意識を取り戻しても尚つらそうな柚の姿に言葉もきつくなる。

「籍が入ってないって理由だけで俺をここから追い出すなら訴えるからな」

低い声で淡々と言う俺に看護師が怯む。
ここまで怖がらせるつもりじゃなかったけれど、今は柚以外気にかける余裕なんてない。

「…そんなにかっかしないで。
追い出したりしないから、治療中は邪魔しないでね」

振り返ると、友美先生が柚の体を診ていた。

「柚ちゃんわかる?
倒れるまで無理しちゃだめってあんなに言ってたのに」

苦笑しながら診察する友美先生を見て、ホッとしたようにかすかな笑いが柚の顔に浮かんだ。