未来のない優しさ

「前にも言ったけど。

結婚するとしないとじゃ
全然違うんだ。

頑固者でも結構、お前は野崎 柚 になるから」

「健吾…」

ふっと笑うと、その胸に私を引き寄せて抱きしめてくれる。

「初めて渡したこの指輪は…柚の乗り越えてきた
悲しみや後悔が詰まってるんだろ…?

そんな重いもんはもう
俺に渡せ」

耳元に届く健吾の言葉はまるで呪文のよう。

「戒めの指輪なんてもう
必要ないから。
必要なのは、新しい柚と俺の未来だから。

この指輪は、柚がつらい時にも俺を想ってくれてた証にもらっとく」

健吾の手が、胸元の指輪をぎゅっと握る。

「…健吾…」

二度と味わえないって思ってた気持ち。

嬉しい。
幸せ。

単純だけど、私には縁のない感情が、私の涙を更に溢れ出させる。