未来のない優しさ

落ち込んだ気持ちを抱えたまま、会社を出ると

「うわっ。愛されてますね。柚ちゃん」

隣の孝太郎が能天気な声をあげて、私の背中を軽くたたいた。

「健吾さんと、ちゃんと相談して下さいよ。
次に住む家。
もれなく健吾さんもついてくるだろうし」

「…何?どうしたの」

孝太郎が顎で示す方に目をやると、会社前の道路に止めた車にもたれている

「健吾…」

片手を上げて近づいてくる健吾は、朝見たスーツ姿じゃなくて、普段着のシャツにジーンズ姿。

一旦家に帰ったのかな?

「こんばんは。柚ちゃんのお迎えですか?」

「あぁ。そんなとこ」

軽く言葉を交わしている健吾と孝太郎の横でぼんやり立って…。

思いがけない健吾の登場に、じわじわと嬉しさが生まれてくる。