未来のない優しさ

「健吾…」

見上げる私に苦笑しながら、私の体を引き寄せると一瞬、唇に暖かさを感じた。

「んっ…っ」

健吾は、あっという間のキスに驚く私の向こうにいる華穂を見つめると

「…ずっと泣いてたぞ」

声を落としてささやいた。

「俺が帰って来てすぐに訪ねて来て…俺見てびっくりしてたな。
俺と二人ってまずいかとも思ったけど、泣きそうにしてたから部屋に上げたんだ」

淡々と話す健吾の指が、私の頬を優しく撫でるのを感じてホッとするけれど、華穂と孝太郎が気になっててれくさい。

「…疲れてるな…。
薬はちゃんと飲んでるのか?」

「うん。飲んでる。
しばらく忙しいから…
頑張らないと」

「…無理するなよ…。
異動するから忙しいのはわかるけどな」

あ…。

異動の話がなくなった事まだ言ってなかった。

「異動なんだけど…」

「俺も、春井の近くに引っ越すから。
一緒に住む家探すし」

「え…!駄目っその必要ないから」

慌てて叫ぶ私に、途端に不機嫌になった健吾は
更に私を引き寄せて

「俺も無理。絶対に離れない」