未来のない優しさ

いつもなら、

『自分の部屋に戻ったら?』

と言うのに、今その言葉を言わなかった柚に気付いて少し戸惑う。

柚と再会してすぐ、柚の母親が

『近くで見守っていて欲しい』

と同じマンションのフロア違いの部屋を用意して俺を訪ねて来た時にはかなり戸惑った。

事故の経緯を考えると、柚が俺を受け入れてくれるかも不安で。

けれど、近くに越してきてから。

あまりにも仕事に割く時間の多さと、抱える責任の重さを知るうちに、柚の母親の心配も納得できるようになった。

少しずつ詰めてきた距離が、柚を追い詰めないように…結婚から逃げないように…。

あと少しで俺の腕に堕ちてくると信じて、合鍵にすがって…。