未来のない優しさ

言わずに過ごしていたここ数日の葛藤がなかったように、軽く笑顔を作って。

コーヒーとお皿にのせたクッキーを持ってリビングに戻りながら、何気なく

「あと一か月でこの部屋引き払う事になったから、クッキーやらご飯やらも、もう作ってあげられなくなっちゃうんだ」

「は?引き払う?」

「うん。転勤になっちゃって…。
とうとう課長になってしまうんだ…」

野崎君の座るソファの足元に座って、へへっと笑うと、かなり胸が痛い。

課長なんて、私には向いてないし…。
転勤も昇進も希望していた訳じゃない。