未来のない優しさ

結局、化粧室に行くよう言われて…。

鏡に映った赤い…キスマークを見て声も出せずに真っ赤になった。

そんな経験のなかった長い歳月を感じさせるような赤い花。

夕べ健吾と体を重ねた時間が夢じゃない証。
耳の下あたりにくっきり…。

はあ…。

健吾に少しの怒りを感じるけれど、それ以上に心が温かくも感じる自分に気づいて戸惑ってしまった。

この花が消えない間は健吾のものだって…。

健吾に愛されてるって…嘘でもそんな優しい気持ちになれる。

ずっと一人で頑張って生きてきて、恋もせずに仕事だけに時間を注いでいた自分に訪れた健吾との夜。

たとえ夕べ限りの健吾の気の迷いでも、その時間がくれた女としての喜びを大切にしていきたい。

…それでもやっぱり恥ずかしくて、いつもまとめている髪を下ろして隠した。
肩より少し長い髪が、夕べ激しく乱れてしまった私も隠してくれた…。