金魚玉の壊しかた

「残念ながら」

私は肩をすくめる。


実はこの正月に屋敷に戻った時にも、

叔父からは散々嫌味を言われ、
母親にはさめざめと泣かれ、
兄からは「こちらも手を尽くしているのだから、貴様もいい加減、町人の真似事をして妙ちくりんな絵など描くのはやめて武家の息女らしくせよ、この恥さらしめが」などと説教を食らったばかりだった。


「薄気味の悪い絵ばかり描く女絵師など、誰も嫁にもらいたくはないそうだ」

密かに、だったら俺が……なんてセリフが返って来ないかと期待したりしていたのだが、遊水は「こんなべっぴんなのにもったいねえな」と言っただけで、

私はそんなに甘くないかとガッカリした。


「遊水は──金魚で商いをしているということは、どこか大店の若旦那か何かか?」


何となく……これまでの様子から、彼はそのように素性のはっきりした身の上ではないとわかってはいたが、私は尋ねてみた。

高級魚で商売しているだけあって、彼の普段着の小袖や羽織の生地はかなり上等なもので、金回りが良さそうなのは確かだ。


もしも──商家の跡取りか何かならば、兄は反対するだろうが、母や叔父の賛成は得られそうな気がした。


一瞬そんな考えが脳裏をよぎって

自分が嫌になった。


打算じみた思考を巡らせるのも、彼に実家の借金を押しつけるのもまっぴらだと思って──

つまり、自分はこの正体不明なところのある金魚屋への思いを綺麗なままにしておきたいのだな、と思った。

己の身分を隠したままの彼との関係に、現実を持ち込みたくないのだ。

ガラス玉の中に作られた偽りの世界のままでいい。


どこか夢を見ているような、非現実的なこの関係を壊したくなかった。


幸い、遊水は私の問いに、「いいや」と首を横に振って、やはり素性については何も語らず、彼の境界線を守って──

私はほっとした。


自分の身分は隠したままで、彼のことを知りたがるなど馬鹿げた真似をしたとも思った。


遊水はそれから、視線を逸らして、

「円士郎様から聞いて知ってるだろう。俺には何人か女がいる」

突然、そんなことを言い出した。