金魚玉の壊しかた

それから私は桶の中の金魚を眺めて、妙なことに気づいた。

「この二匹、背びれがないぞ?」

鯉でもフナでも、魚というものは背にヒレを備えていて然るべきだ。

しかし桶の中を泳ぐ金魚のうち、二匹には背にあるべきヒレがない。形もふっくらした楕円形に見えた。

「そいつらはマルコ──卵虫って種類だ」

「ランチュウ?」

「工夫して作り出された品種だ。
金魚ってのはこうして上から見るからな。背びれがないと見栄えがいいだろう?」

ほおう?

初めて見る、つるりとした赤い卵のような背中をした珍しい魚に見入っていると、遊水はふふ、と──またこちらの心臓が騒ぐような微笑を浮かべた。


「さすが。普段から生き物の絵を描いてるだけあるねェ。
そいつらに背びれがないと一目見てすぐに気づいたのは亜鳥だけだ」


じゃあ、そんな君に問題だ、と、遊水はいたずらっぽい目になって言った。


「この二匹には背びれがないが──こいつら全部、金魚というものには、俺たち人間や犬猫、他の魚と違って体の中の何かがねえんだが……さて、それは何でやしょう?」

「金魚の体の中身はフナと同じだと言ったな?」

「ああ」

常日頃から様々な魚をさばいて、臓腑の位置や骨の形を描いていたのですぐに何のことかわかった。
フナと同じならばおそらく──

「だったら胃袋がないのだろう。鯉にもないのだがね」


あっははは、と遊水は嬉しそうに笑った。


「正解だ。ふふ、こんなの即答した奴も他にいないぜ」


やっぱり面白い女だな。


そう零して、美しいエメラルドの如き双眸を細めて楽しげに笑い続ける金魚屋の笑顔を、私はどきどきとうるさく鳴る自分の胸の音を聞きながら、何か眩しいものを見るような思いで眺めていた。