遊水はどうも私の長屋を訪ねてくれていたらしい。
「世話になった礼を持ってきたら、留守だったんでね」
ちょうど私が家を空けていたため、町に出て探していたのだそうだ。
「礼?」
「ああ。礼をすると手紙を残しておいたじゃねえか」
手紙の内容を嘘だと思ったわけではなかったが、何となく彼はもう私の前に現れない気がしていた。
狐につままれたような顔でもしていたのだろう。
「何だ。俺があれっきり姿を眩ませるとでも思ってたって顔だな」と、通りを並んで歩きながら遊水は屈託無く笑った。
長屋に戻ると、部屋の前に天秤棒と桶が二つ置いてあって、赤い魚が中で泳いでいた。
「礼ってまさか──金魚か?」
私はぎょっとした。
「ああ。さばいて中を描くなり、長屋で飼うなり、好きにしてくれ」
私は絶句して、桶の中にいる五、六匹の小さな魚を凝視した。
「いや、さすがに受け取れないだろう、これは」
二十一世紀の未来には、金魚という魚の値段は、肉食魚のエサ用に売られている数十円のものから、ン万円の品評会クラスのものまでピンキリだろう。
しかしこの魚の値段が下落して庶民にも親しめるものになるのは、化政文化期以降のことだ。
我々の時代、この魚はもれなく高級なものだった。
この小さな魚一匹で三両から五両。
つまり諸君らの感覚で言えば三十万円から五十万円。超高級ペットである。
今、桶の中に泳いでいる金魚を全部合わせれば、二百万円を超える価値がある。
数日世話をしただけで、こんな大金に等しい礼を受け取ることはできなかった。
「毒の治療と言うならば、礼は私よりも虹庵先生に……」
「ああ。もちろん君がいない間に、先生にも礼はさせてもらったぜ」
私が言いかけると、遊水は事も無げにそんな言葉を寄越してきた。
「こいつはその残りだ」
「って、先生はこんな高級な品を受け取ったのかね?」
「世話になった礼を持ってきたら、留守だったんでね」
ちょうど私が家を空けていたため、町に出て探していたのだそうだ。
「礼?」
「ああ。礼をすると手紙を残しておいたじゃねえか」
手紙の内容を嘘だと思ったわけではなかったが、何となく彼はもう私の前に現れない気がしていた。
狐につままれたような顔でもしていたのだろう。
「何だ。俺があれっきり姿を眩ませるとでも思ってたって顔だな」と、通りを並んで歩きながら遊水は屈託無く笑った。
長屋に戻ると、部屋の前に天秤棒と桶が二つ置いてあって、赤い魚が中で泳いでいた。
「礼ってまさか──金魚か?」
私はぎょっとした。
「ああ。さばいて中を描くなり、長屋で飼うなり、好きにしてくれ」
私は絶句して、桶の中にいる五、六匹の小さな魚を凝視した。
「いや、さすがに受け取れないだろう、これは」
二十一世紀の未来には、金魚という魚の値段は、肉食魚のエサ用に売られている数十円のものから、ン万円の品評会クラスのものまでピンキリだろう。
しかしこの魚の値段が下落して庶民にも親しめるものになるのは、化政文化期以降のことだ。
我々の時代、この魚はもれなく高級なものだった。
この小さな魚一匹で三両から五両。
つまり諸君らの感覚で言えば三十万円から五十万円。超高級ペットである。
今、桶の中に泳いでいる金魚を全部合わせれば、二百万円を超える価値がある。
数日世話をしただけで、こんな大金に等しい礼を受け取ることはできなかった。
「毒の治療と言うならば、礼は私よりも虹庵先生に……」
「ああ。もちろん君がいない間に、先生にも礼はさせてもらったぜ」
私が言いかけると、遊水は事も無げにそんな言葉を寄越してきた。
「こいつはその残りだ」
「って、先生はこんな高級な品を受け取ったのかね?」



