金魚玉の壊しかた

「遊水……」

何者だ、こいつは?

今のような連中を軽くあしらった。
どう考えてもただの金魚屋であるはずはない。

連中の姿が見えなくなると同時に、遊水は顔から笑いを消して私を見た。

どう話しかけたら良いものか、絡まれていたのを救われたわけだからまずは礼を言うべきかとそんなことを考えつつ私が口を開きかけると、

「来い!」

遊水は険しい表情で私の腕を握って、そのまま有無を言わさぬ力で引っ張って歩き出した。

「え? お、おい……ちょっと──」

戸惑いながら、声を上げて──

私は周囲に人だかりができていたことに気づいた。


往来の真ん中での男たちと私のやり取りは、どうやら町行く人々にとって良い見せ物になったらしかった。


引きずられるようにして衆目の前から連れ出され、人目につかない商家と商家の間の細い路地に引っ張り込まれて、

「あんな連中に喧嘩売るなんざ何考えてやがる!?」

遊水は私を商家の壁に押しつけて真正面から睨みつけた。

「今の奴らはここらを縄張りにしてるヤクザだ。
気が強いのは結構だが、喧嘩を売るならもっと相手を選ばねえか!」

本気で怒っているらしい彼の様子に私はびっくりしてしまった。

彼につかまれて壁に押しつけられている片手と肩とは、思いも寄らない力で固められていて、身じろぎもできない。


「俺が通りかからなかったら、どうなってたと思うんだ?
大風呂敷広げるなら、自分で始末のつけられるものだけにしやがれ!」


私には、そこらの暴漢やチンピラ連中に脅されても屈しない矜持があった。
実際、夜中に突然円士郎が押し入ってきた時も、町のヤクザだという今の連中相手にも全く怯むことはなかった。

しかし、彼に緑色の双眸で見据えられ、真剣な怒りでもってそう言われて


私は気圧され、

「──すまない……」

と口にした。


数日前に長屋で会話をしていた時には想像もできなかったが、

今こうして私に向けられた遊水の言葉と視線とには、私を思わずたじろがせる程の威圧感があった。

それが何に根差したものなのか──
彼がこれまでどんな人生を送ってきたのか──

私には何も知りようがなかった。