金魚玉の壊しかた

そうだ、結局──雨宮の家名を地に落とし、兄に苦労をかけ、母を見る影もなくやつれさせた張本人は父であると共に──政敵であった伊羽青文でもあるのだ。
いくら城代家老に正義があり、父が悪だったとしても、私にしてみればあの二人が共謀してやったことにも等しい。

二人して雨宮の家を没落させ、私の縁談を破談にし、おかげで私はあの金魚屋に出会って──こんな喪失感を知るハメになったのだ。

などと、完全に言いがかりのような逆恨みが腹の中に渦巻いて、我ながら見当違いも甚だしいと思える怒りが沸々とわき起こった。

父は死んだが──下らぬ権力争いに私の人生を巻き込んだ片割れはまだ生きている。
ああ、忌々しい権力者どもめ。

「そうすれば、いくらでもこの喉かっ切って見せてやろうじゃないか」

腹を切った父のように。

「な──なんだあ?」
「このアマ、何を言ってやがるんだ?」

チンピラたちは唖然として、

「随分と威勢がいいなァ、ねーさん。話は俺たちと一緒に来てゆっくりしようかい」

私がぶつかった男が髭面に引きつった笑いを浮かべて言った。

「そんなにお偉い御仁に会いてえなら、御家老よりももっと格の高いお人に会わせてやるよ」

後になって考えてみると──

笑い話でしかないのだが、この時この男が口にした家老よりも偉い人物というのは、渡世人とつき合いのあった結城家の御曹司である円士郎のことに違いなかった。
本気で彼に引き会わせるつもりだったのかはともかく。

「気安く触れるな、下郎が!」

私は肩をつかもうとする男の手を素早く払い除けて怒鳴った。

「げ……下郎だァ!? このアマァ」

今度こそ本気で激昂した男が腕を振り上げて、私は身構え──





横手から伸びてきた手が、男の腕をつかんで止めた。



「てめえら、女相手に何をやってる?」

続けて、男の手をつかんだまま鋭くそう言ったのは、



遊水だった。