金魚玉の壊しかた

これまで私が考えてもみなかったことだった。


「何が──違うのだろう」


私はこの時初めて、体の中身をいくら調べてもわからないことがあるのではないかと思った。


「親から子に、私たち生き物というのは何が伝わっているのだろうな……。

誰も彼も血肉は同じに見えるのに──我々の血肉には、もっと目に見えない何かが潜んでいるのか?」





諸君らは、私が抱いたこの疑問の答えを既に教育の場で習っていて、
容易に答えを口にすることが出来るだろう。

そのように学問の発達した時代に生きる諸君らを、私は心底羨ましく思う。



諸君から江戸時代と呼ばれることになるこの時代の、我々が生きた時というのは

まだチェコという国のGregor Johann Mendelなる人物によってメンデルの法則が発表されるよりも百年も前であり──



「遺伝子」という言葉は存在していなかった。