金魚玉の壊しかた

ヨーロッパにおいてJohn Jonstonなる人物が記した「動物図説」。

蘭語──つまりオランダ語版では、

Naeukeurige Beschryving van de Natuur der Vier-Voetige Dieren, Vissen en Bloedlooze Water-Dieren, Vogelen, Kronkel-Dier en, Slangen en Draken(四足動物、魚類と無血水棲創物、鳥類、有節動物、蛇類と龍類の精密な自然誌)

というなかなか長ったらしいタイトルらしいが──

私が生きた時代には既に、このような蘭学書が日本に持ち込まれていた。

まあ、内容自体は博物学的で、想像上の生き物まで含まれていたそうだから、諸君らの時代の動物図鑑と同じというわけではないだろうが。


二十一世紀のように誰もが自由に書物を見られた時代ではない。

貴重なこの書物は幕府に贈られて管理され、
後に野呂元丈なる人物の手で「阿蘭陀禽獣虫魚図和解」として和訳された後も、時のお上の手にあった。


つまり、西洋生物学というものは
存在はしていても往々にして広く知られた時代ではなかったということだ。


彼が江戸で目にした貴重な書物の写しというのが、果たして後に「阿蘭陀禽獣虫魚図和解」と呼ばれる書物の蘭語版の写しだったのかは不明だが──


──金魚屋というのは、そんなものを持ち出せるような立場の人間とも交流があるのか!?


この男、本当に何者だ? と私はますますわからなくなって……


「こいつは──亜鳥にも見せてやりたかったな」

遊水がそんな呟きを漏らしたりするものだから、またしても心の臓がうるさく音を立てた。

とことん、女の心を騒がせるのが上手い奴である。