いや、今は町の商人たちも長崎から入ってくる異国の文化に親しむ世の中か。
問いに対してすぐに答えが返ってこなかったので、これは踏み込んではならない境界線だろうかと思っていると、
「俺は江戸で、さる御方から貴重な書物の写しを見せてもらったことがある」
遊水は私の描いた絵を眺めながら、考え込むようにしてそんな話をしてくれた。
やはり金魚というものは江戸のほうが売れるらしく、彼は江戸によく行くのだそうで、垢抜けた立ち居振る舞いはこのためかと私は納得した。
「貴重な書物、とは?」
「阿蘭陀の国の本草学の書物とも呼べるものでね。
俺が紅毛の血を引いていて、金魚の盆栽の知識があると知った御仁が、読めないかと持ってきたのさ」
阿蘭陀というのは、オランダの国のことだ。
遊水はせせら笑うように鼻を鳴らし、
「確かに俺は幼い頃に母親の国の言葉については読み書きを習っていたが、紅毛の国ったって、蘭の国だけじゃあねえんだぜ。
知ってる言葉と文字が似通ってるってだけで、俺にしてみても異国の書物だ。
髪の色目の色が金色翠色だからと言って、読めるかと笑ってやったが──」
遊水は真面目な表情になって、どきりとするような眼差しを私に向けてきた。
「その書物に描かれた生き物の図は、君が語ったように生き物同士の詳細な様子を描き、比べて、違いや共通点に従って並べたものだった」
諸君らは、過去の日本にも「阿蘭陀禽獣虫魚図和解」というものが存在したことをご存じだろうか。
問いに対してすぐに答えが返ってこなかったので、これは踏み込んではならない境界線だろうかと思っていると、
「俺は江戸で、さる御方から貴重な書物の写しを見せてもらったことがある」
遊水は私の描いた絵を眺めながら、考え込むようにしてそんな話をしてくれた。
やはり金魚というものは江戸のほうが売れるらしく、彼は江戸によく行くのだそうで、垢抜けた立ち居振る舞いはこのためかと私は納得した。
「貴重な書物、とは?」
「阿蘭陀の国の本草学の書物とも呼べるものでね。
俺が紅毛の血を引いていて、金魚の盆栽の知識があると知った御仁が、読めないかと持ってきたのさ」
阿蘭陀というのは、オランダの国のことだ。
遊水はせせら笑うように鼻を鳴らし、
「確かに俺は幼い頃に母親の国の言葉については読み書きを習っていたが、紅毛の国ったって、蘭の国だけじゃあねえんだぜ。
知ってる言葉と文字が似通ってるってだけで、俺にしてみても異国の書物だ。
髪の色目の色が金色翠色だからと言って、読めるかと笑ってやったが──」
遊水は真面目な表情になって、どきりとするような眼差しを私に向けてきた。
「その書物に描かれた生き物の図は、君が語ったように生き物同士の詳細な様子を描き、比べて、違いや共通点に従って並べたものだった」
諸君らは、過去の日本にも「阿蘭陀禽獣虫魚図和解」というものが存在したことをご存じだろうか。



