金魚玉の壊しかた

見ず知らずの他人に、寝言を聞かれたと知るのは……あまり気分の良いものではないだろうという気がする。


「俺は、何か言ってたかい?」


「覚えていないのか?

……うなされていた。
すまないな、その──聞いてしまって……

でも、何を言っているかはわからなかったのだが……」


「ん? ああ──別に構わないさ」


遊水は、疲れたような視線を天井に投げた。


「昔の──夢を見ていたんだ……」


「酷い夢だったのか?」

その問いには答えず、遊水は目だけ動かして緑の瞳を私に向け、


「Ta tu alainn……」


あの、不思議な響きを口にした。

静かな、
染み入るような、
耳に心地いい囁きだった。


「この言葉かい?」

彼は優しい微笑を浮かべた。

心を持って行かれそうな──甘い微笑みだ。

「そ、それだ」

クラリと視界が揺れるような、
眩暈(めまい)にも似た感覚に、何とか抗いながら

「何と、言ったのだね?」

辛うじて私は訊いた。

偶然なのか──
彼がうわごとの中で、最後に私に向かって発したのと同じ響きが、
今の囁きの中にも含まれていた。


しかし、美しい若者はまた答えず、
微笑を浮かべたまま黙って私を見つめて──


やがて、目を閉じて深い溜息を一つ吐き


別のことを言った。

「絵師先生、先生は……自分の大切な人の命が危なくて、助ける方法が自分にはなくて、
残された道が迷信めいた馬鹿馬鹿しいものだけだったとしたら──どうする?」