金魚玉の壊しかた

うう、落ち着け。

初対面の男相手に、何を振り回されているのだ私は。



ひとしきり笑ってから、男は

「悪いね」

つと、
寂しそうに目を細めてそう言った。

「こんな得体の知れない、見ず知らずの男が
若い女の一人暮らしに突然転がりこんじまって。
迷惑だったろ」


またも私を動揺させるような態度に言葉。

男のセリフからは本気の謝罪と誠意が感じられる。


「いや、君が気に病むことは何もないよ。
円士郎殿の頼みだからな」

急にしおらしくされて焦る私を
彼は翠玉の瞳でじっと見つめて──

「そうかい」と言って黙った。


それきり会話は途切れてしまう。


沈黙に耐えかねて、
私は話題を探して、

「円士郎殿から聞いたのだが、遊水……殿というのだな、君は」

昨晩聞いた、男の名を唇に乗せた。

「殿なんてつけられると、こそばゆくっていけねえ」

と、彼は苦笑し、

「ただの遊水でいいぜ、絵師先生」

そんな風に言った。


「承知した、遊水。
……珍しいな、紅毛人との混血なんて」

私は遊水という名の男の、異端の容貌を見下ろした。

諸君らの時代ではハーフなんて、珍しくもないかもしれないが、
少なくとも、この時代を生きる私にとっては、目にするのは生まれて初めてのことだった。

諸君らの時代でも、黄色人種の日本人と白色人種とのハーフで、
遊水のような──大人になってもトゥーヘアードに緑眼という形質を保ったままの若者は稀だろう。


「ひょっとして、君がうわごとで喋っていたのは──紅毛の言葉なのかな?」

私は思わずそう口走ってしまって、

「うわごと?」

彼が聞き返してきて、しまったと思った。