金魚玉の壊しかた

私の視線に気づいた若者が、「ああ」と言って頭に手を持っていった。

「普段は手拭いで隠してるんだが……」

しゅるりと、

彼の手が──
髪を束ねていた紐をほどき、

黄金色の輝きを持った、
蚕の吐く絹糸のような白い総髪が肩にこぼれ落ちた。


緩くうねる水面に似た白金の髪に、
透けるような白い肌、
彫りの深い顔立ち。

私を見つめてくる瞳も、
こうして間近で見ると、カワセミの羽根のような翠玉色だった。



「君は……異人か──?」



陶然と呟いた私の言葉に、
美しい若者は金の髪を揺らして「いやいや」と首を横に振った。


「よくそう間違われるが、俺は紅毛の血を引いてるだけだ」

「紅毛人の血を……?」


諸君らもよく知る「南蛮人」という呼び方が、
南ヨーロッパのスペイン人、ポルトガル人などを指すのに対し、

「紅毛人」というのは、
北欧のイギリス人やオランダ人などを指した呼び方だ。


その文字の如く、赤毛の者が多いが故の「紅毛」という呼称だが──


目の前にいる男の髪は赤ではなく、陽の光に透ける金色をしている。


「母親がね」

彼は言った。

「紅毛の出だったのさ」


それから彼は髪と同じ金の眉を歪めて苦しげにうめき、
ぐらりと前のめりに体が倒れた。

私は咄嗟にそれを支えて──



男の白い首筋から流れ落ちて鎖骨にかかった金髪が目に映り、



どきりとした。



肉親以外の男が髪を下ろしたところを見るのは初めてだった。

しかもこの至近距離。


ただでさえ見惚れるような不思議な美貌の男の、髪を下ろした姿には

妙に蠱惑的な色気のようなものがあって──



再び、私の頬は熱を帯びる。



くそ……円士郎め。

こんな──
役者も真っ青の色男だったとは──聞いていないぞ……!