金魚玉の壊しかた

再びうとうとしていたようで、

低いうめき声で私は目を覚ました。


ハッと顔を上げると──

目の前に寝ていたはずの男の姿が消えていた。


慌てて部屋の中を見回す。


男は、私が押しやった絵の道具がある部屋の隅で、

胸を押さえてうずくまっていた。


安静にしていないとまずいのに──

「何をしてるんだね!?」

私は仰天して
男に声をかけて、

「──ああ、水をもらおうと……そのついでに、ね」

男が、

うずくまったまま、
手にした書物と床に広げた絵を示した。


どうやら、私の絵や本草学の書物を眺めていたようだ。


「起き上がったのか? まだ寝ていないと──」

言いながら、私は慌てて立ち上がり……


私の肩から羽織が滑り落ちた。


男にかけてやっていたものだ。

「よく眠っていたようだったんでね」

そう言って、男は顔を上げて微笑した。


私は少し頬が熱くなるのを感じた。

世話をするつもりが、逆に世話になってどうするのだ?


「私としたことが──すまないね。すぐに横に……」

男に駆け寄って、そう言いかけて、



私は言葉を途切れさせた。



どうやらすっかり眠りこけてしまったようで、
既に陽は高く昇り、西に傾いていた。


私が間借りしているこの長屋は西向きで、採光のための窓は戸口の横にしかなく、

午後にならないと、部屋を照らす明るい日差しは入ってこない。



その光の中で──

私は今、ようやく男の容姿をまともに見た。





髪が……金色だ──。