金魚玉の壊しかた

「心配しなくても私と君の兄上は恋仲などではないよ、安心したまえ」

とりあえず、少女が誤解しているらしい彼と私の仲に関しては、キッパリ否定しておいた。

ま、それが事実なわけだし。

少しだけ、胸の辺りがスカスカしたが──気のせいだと思うことにした。


毒にやられた男は、
そんな私たちに視線を送って、やり取りをじっと聞いている様子だったが、

やがて眠ったのか、瞼を閉じた。


虹庵の所はここの所、夜になると運び込まれる急患で手一杯の様子だったので、この男はうちに置いて様子を見ようということになっていた。


そうは言っても、こちらもうら若い乙女の一人暮らし。

見ず知らずの男を家に置くというのは……

さすがに非常識な行為で、普通ならためらわれるところだが。


相手は毒で弱っていてこのとおりだし、
少なくとも先程の様子では円士郎よりは良識的な相手のようだし、

身の危険もないだろうと思った。


何より──

「こいつは、俺の大事な友達なんだ。何とか助けてやってくれ」

円士郎にそう頼まれた私は、二つ返事で請け負ってしまった。


彼の力になりたい、という思いが常識による躊躇を上回った。


円士郎とおつるぎ様は、いつも円士郎がそうしていたように、私の部屋で夜明けまで過ごし、男を残して屋敷へと帰って行った。

去り際に、

「私はこの者の名もまだ知らないのだがな」

苦笑気味に言った私に、



「遊水だ」



と、円士郎は彼の名を教えた。



遊水──。



「前に、あんたに会わせたい男がいるって言ったろ」

円士郎は眠ったままの男に視線を投げて言った。

「それがこいつだ」