金魚玉の壊しかた

症状は主に心の臓。

腕の怪我が、毒の塗られた刃物によるもので、どうやらそこから毒が入ったらしい。


福寿草が真っ先に浮かんだ。


書物を引っ張り出してきて調べ、他に万年青、君影草、夾竹桃のいずれかではないかと当たりがついた。

諸君らの時代で言う、ジギタリス系の強心作用の毒だ。

しかし諸君らの二十一世紀と違って、解毒治療など未発達なこの時代である。


間もなく虹庵を伴って戻ってきた円士郎は、私が突き止めた植物の名前を挙げると「さすがだな」と嬉しい賞賛の言葉を返してくれたものの──

「薬はない」

かけつけた虹庵の口からは、私の予想通りの言葉が飛び出した。

「症状を和らげながら、後は自然に回復するのを待つしかないな」

要はこの男の体力に任せるしかない、ということだ。


円士郎は、男が常日頃から持ち歩いていた毒消しを飲んだところ、ここに来る間症状が抑えられたことを告げた。

男に聞くと、円士郎とは違って、自分が携帯していた薬が何から作られているかはちゃんと把握していたようで、症状を和らげるための薬は何とかなりそうだった。


しかし……


私はどうにも胡散臭い思いでこの若い男を眺めた。

何だって毒塗りの刃物傷を受けるような事態になったのかも気になるし、普通の人間は普段から毒消しなんて持ってうろうろしたりはしない。

この男がどうしてそんなものを携帯していたのかも気になる。


どうもただの町人というわけではなさそうだ。

──と、ここまで考えて、円士郎が町のヤクザともつき合いがあるという噂を思い出した。

……そっちの筋の者か?


いやいや、いくらヤクザでも喧嘩に毒薬は使わないだろう。

まさか毒手裏剣を使う忍者と斬り合った……なんてコトもあるまいし。


ううむ、やはり君子危うきに近寄らず、かな。


その円士郎はと言えば、

虹庵が男の手当てを終えて帰って行ったのにも気がつかない様子で、
何やら私と円士郎の仲を勘ぐっているらしい美少女相手に、必死になって言い訳をしていた。