「いつまでこんなことを続けるつもりだね」

「こんなこととは?」

「町人の真似事、絵師の真似事だ!」

「絵を描くことは関係ないと思いますが」

「大ありだ! 聞けば腑分けの真似事までして、気味の悪い絵ばかり描いておるというではないか!
雨宮の娘は頭がおかしいと指さされ、これでは来るべき縁組み話も来ないだろう」

来るべき縁組み話?

馬鹿馬鹿しい。
落ちぶれて借金ばかりがかさんだ今の雨宮家と縁組みなどして何の得があろうか。

私に縁組み話など来ると、この叔父は本気で考えているのか。

「それでは順番があべこべです」

うんざりしながら私は言った。

「縁談があるならばいつでも喜んで嫁ぎますが、それがないから私は絵を描いているのです」

「逆だ! 絵など描くからますます縁談が遠退くのだ!」

叔父としばし睨み合って──


ひょっとすると、悪循環ということなのかもしれないなと、私は少し己を省みた。

確かに、町人の真似事をして理解不能な絵ばかり描く娘を
好んで嫁にしたいと思う家もないのかもしれない。


おおお、という嗚咽が聞こえて思わずぎょっとしながら振り返ると、すっかりやつれた私の母親がむせび泣いていた。

「なんと不憫な……これほどの器量もありながら──」


私はげんなりした。

頭ごなしに怒鳴られるのも腹が立つが、
こういう風に同情の涙を流されるのもなかなかキツいものがある。


「町暮らしで、どなたか良い人に巡り会えたということはないのかえ?」

母上にそう問われて──


一瞬、


結城円士郎の顔が浮かんだ。