雨宮家の菩提寺に墓参りに行って、円士郎と会った日から数日後、
私は城下の通りに面して置かれた縁台に座って、道行く人々を眺めていた。
首から箱をつり下げた飴売りが通り過ぎ、豆腐売りや、天秤棒の両端に吊したカゴに瓜を詰め込んだ棒手振が重たそうに過ぎて行く。
カラリと晴れた午後の空には、遠くに入道雲がそびえ、白い漆喰の塗られた商家の壁を強い夏の日差しが眩しく照らしている。
縁台の上に広げられた大きな赤い傘が、その日差しを遮りわずかばかりの涼を頭上にもたらしていた。
もっとも、一番の涼は、傘が落とす足下の影の中に置かれた二つのタライの中で気持ちよさそうに泳ぐ赤い魚だろう。
「珍しいねえ、金魚かィ。売れるかね?」
威勢の良い声に顔を上げると、目の前に立った物売りが商売仲間の気安さで話しかけてきたところだった。
「ダメだ、ここの大店の主人は買ってくれなくてね」
被り手ぬぐいで頭を隠した金髪の金魚屋は、私と並んで座ったまま肩をすくめた。
「そっちはどうだい?」
「もうすぐ秋だろ? この時期になっちまうとなかなかねえ」
そう言うこの物売りは、天秤棒の両側に文字通り鈴生りの風鈴をつり下げていた。
涼しげなびいどろの音が通りに響いて、風鈴売りと金魚売りが会話する周囲だけ、日差しの暑さも和らぐような気がした。
目にも耳にも涼しい光景を眺めながら、私は縁台に置かれた豆大福を口に運んだ。
「それで、売り手から客に転身かい?」
遊水の横に置かれた串団子を眺めて風鈴売りが笑った。
「ちっともなびかない大店の主人より、女を口説くことにしたのさ」
私を目で示して、金魚売りも笑う。
「こいつはべっぴんの町娘を捕まえたな」
と、日よけに被った笠を傾けて風鈴売りは私を眺め、
「上手くやりな」
などという言葉を遊水に残して、びいどろの嬌声と共に去って行った。
遠退いてゆく涼しげな音を聞きながら、私たちは顔を見合わせて笑った。
私は城下の通りに面して置かれた縁台に座って、道行く人々を眺めていた。
首から箱をつり下げた飴売りが通り過ぎ、豆腐売りや、天秤棒の両端に吊したカゴに瓜を詰め込んだ棒手振が重たそうに過ぎて行く。
カラリと晴れた午後の空には、遠くに入道雲がそびえ、白い漆喰の塗られた商家の壁を強い夏の日差しが眩しく照らしている。
縁台の上に広げられた大きな赤い傘が、その日差しを遮りわずかばかりの涼を頭上にもたらしていた。
もっとも、一番の涼は、傘が落とす足下の影の中に置かれた二つのタライの中で気持ちよさそうに泳ぐ赤い魚だろう。
「珍しいねえ、金魚かィ。売れるかね?」
威勢の良い声に顔を上げると、目の前に立った物売りが商売仲間の気安さで話しかけてきたところだった。
「ダメだ、ここの大店の主人は買ってくれなくてね」
被り手ぬぐいで頭を隠した金髪の金魚屋は、私と並んで座ったまま肩をすくめた。
「そっちはどうだい?」
「もうすぐ秋だろ? この時期になっちまうとなかなかねえ」
そう言うこの物売りは、天秤棒の両側に文字通り鈴生りの風鈴をつり下げていた。
涼しげなびいどろの音が通りに響いて、風鈴売りと金魚売りが会話する周囲だけ、日差しの暑さも和らぐような気がした。
目にも耳にも涼しい光景を眺めながら、私は縁台に置かれた豆大福を口に運んだ。
「それで、売り手から客に転身かい?」
遊水の横に置かれた串団子を眺めて風鈴売りが笑った。
「ちっともなびかない大店の主人より、女を口説くことにしたのさ」
私を目で示して、金魚売りも笑う。
「こいつはべっぴんの町娘を捕まえたな」
と、日よけに被った笠を傾けて風鈴売りは私を眺め、
「上手くやりな」
などという言葉を遊水に残して、びいどろの嬌声と共に去って行った。
遠退いてゆく涼しげな音を聞きながら、私たちは顔を見合わせて笑った。



