金魚玉の壊しかた

肌の上を唇が伝う。

吐息が漏れる。


「亜鳥」

彼が私の名前を呼ぶ。

体の芯が痺れていく。


気づけば行灯の火は消えて、

水底のような青い夜の帷に包まれていた。


「亜鳥」と、彼が繰り返す。


ぱしゃんと音を立て、部屋の隅に置かれた陶器の中の金魚がはねた気がした。


ゆらゆらと世界が水の中で溶けてゆくのを感じながら、

私は何度も、何度も、愛しい人の名を呼んだ。


どちらの名を呼んでいたのか、自分でもわからなかった。





いつの間にか再び鳴き始めた虫の声が、遠く聞こえていた。