この時の遊水の反応は、先の円士郎のものと同様、私が家老家の娘だということだけに対するものとは思えなかった。

しかし、ならばそれが何に根差したものなのか、私には想像できなくて、


無性に不安に駆られて、確かめた。


「遊水」

「なんだ」

「あなたは私の前からいなくなったり……しないだろう?」

「…………」

「盗賊でも、人を殺していても、あなたがどんな人でもいい。
だからまた、ここを訪ねてきてくれるだろう?」


返答をためらうかのように、遊水の目が泳いだ。

私は恐ろしくて、彼にしがみついて、


「いなくならないで……」


囁いたら、彼は私の頭を撫でて頷いた。


「わかった。俺は亜鳥の前から消えたりしない。これからもここに来るから、心配するな」


私はほっとして、


遊水の腕の中で眠りに落ちて、



次の朝、目が覚めると

遊水が円士郎によってここに担ぎ込まれたあの時と同じように、長屋の中に遊水の姿はなかった。


そしてこの日より先、彼がこの長屋に私を訪ねてくることは二度と無かった。




しかしそれは、遊水が約束を破ったのではなく──

私自身の、この長屋でのモラトリアムの時間が終わりを迎えたためだった。


私に婚儀の話が持ち上がったのは、これから間もなくのことだった。