「ジョナス・・・」
静子の目は、最初は驚きに見開かれ、やがて閉じられた。ひとすじ、涙が彼女の頬をつたっていく。
静子も、そっとジョナスを抱きしめた。
「ジョナス、私たち、出会うのが遅すぎたのよ・・・」
「かまうものか!逃げるんだ、二人でここから逃げるんだ!」
「私たちの敵は世界なの。逃げる場所なんて、どこにもないわ」
二人はいま、お互いの体温と息遣いだけを感じていた。
「・・・ある・・・あるぞ、逃げる場所が!」
「えっ?」
「あの龍に乗って、幻想世界に逃げるんだ。そうすれば、世界も俺達を追ってはこれまい!」
ジョナスは静子の手を引いて、龍の頭に飛び乗った。
「ドラゴンよ、俺達をいざなってくれ!」
ジョナスが叫ぶと、龍は頭をもたげた。
そして、二人を乗せた龍は天空高く舞い上がったのだ。

風を切って大空を舞う龍の頭上で、二人は抱きしめあった。
「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったね」
少し照れたように言うジョナスに、静子は魅力的な含み笑いをして見せた。
「そうだったわね。私の名前は静子よ。よろしく、ジョナス」
「静子・・・」
海を越えて、秋晴れの空はまだ見ぬ世界へつづいていた。



     おわり