放たれたビール缶がトメの脳天に命中し、コツーンといい音を立てた。
「ギャッ!」
瞬間、トメの全身に電撃が走った。そして彼女の脳内に、今までの人生の出来事が走馬灯のように駆け巡った。思い出が行過ぎた後、トメの意識は青空の下の浜辺に立っていた。
トメの視界で、穏やかな海面の一部がうねり、水中から黒々とした影が浮かび上がってきた。それは巨大な龍であった。トメは、龍の頭上に一人の男がしがみついているのに気がついた。
「あっ、爺さん!」
男は数年前に他界したトメの夫、リキオであった。
「婆さーん!大漁じゃ!大漁じゃぞーい!」
リキオは振り落とされまいと必死に龍のたてがみにしがみつきながら高らかに叫んだ。
「爺さん、あんたは昔っから、物事の程度というものをわかっとらん!」
「大漁じゃー、大漁じゃーッ!」