幾千の夜を越え

「可笑しな事をおっしゃられる…誰がですと?何故この疫病を見て誰の仕業かとお思いになる?」

状況を把握しているということももちろんあったのだが。

見たところ
病原体が自然発生出来る
手の行き届いていない様な
不衛生な場所はなく。

農業で成り立っているこの村人に村の出入りをする者はいない。

行商か旅人が持ち込んだと考える方が納得いく。

それを見越しての策に違いない。

行商或いは旅人に扮した何者かが故意に病原体を持ち込んだ…。

「旅の方よ…。
貴方は確かな眼をお持ちの様じゃ疫病が流行る少し前にじゃったか確かに村では見掛けぬ男が1人おったよ」

老婆がゆっくりと話を始める。

旅人にしては身形が良く。
行商にしては胡散臭い。

身軽なその出で立ちで
ふらっと立ち寄りふらっと去る。

「わしら村人の目を避ける様に、誰とも接触はせなんだ…」

「誰とも接触していないだと?」

それは奇異だ。
空気感染はしないはず。

でなければ
この様な病原体を持ち運べるはずなどないではないか。

抗体があるのだとしても
危険を犯すとは考え難い。

自らの姿を記憶に残す振る舞いもまた腑に落ちないのだが。

何かからくりがあるはずだ。