幾千の夜を越え

村へ降りて目にするのは
脅しではない光景。

原因不明の高熱に浮かされ
身体中に謎の湿疹を発疹し
皮膚はどす黒く変色し壊死する。

知識を持たない村人は
ある者は隔離され
ある者は看病の為
自らも感染し…。

噂話も尽きないのか
後ろ指を指す。

立烏帽子を外し
旅人になりすました俺は
想像以上の悲惨な状況に
唯、言葉を無くし立ち尽くす。

目の前で咳き込み倒れた
老婆に駆け寄り抱き起こすが

「いけません…」

その手を逃れる。

「旅のお方ですか?」

非礼に対してなのか頭を下げた。

「お早くお発ち去りなさい」

見れば老婆の袖口から覗く腕にも発疹を確認した。

「ここは見ての通りもう終わりに御座いますゆえに何もお関わりに為らず通り過ぎなさい」

有無を言わさぬ老婆の態度は
全てを受け入れ覚悟を決めた者の強さを感じさせた。

「一体何が遭ったというのだ?」

詰め寄ろうとする俺を拒み

「お聞き入れなさい。
好奇心は身を滅ぼします」

立ち去る仕種を見せた。

「待て!」

老婆の腕を掴みそれを阻止する。

「説明せよ!誰がこの様な事を」

俺の手を外し
振り返った老婆の目は
射る様に突き刺さる。