幾千の夜を越え

『通さ…ない』

「右近様!」

ザッザッザッと廊下を摺り足で
何人もの足音と共に近付く呼び声

「何事だ!」

障子戸を勢いよく開け放し見やる

「一大事で御座います」

一人が平伏すのに合わせ
女官達も顔を伏せた。

「こちらをご覧ください」

恭しく差し出された手には文矢。

それを広げ目を通す。

「成る程…業を煮やしたか」

「今朝尊の寝所に射られていた物に御座います」

それはさほど問題ではないとでも言う様に頷く。

その様子に
女官達は皆で顔を見合わせた。

「実に義憤なことだ」

その言葉とは違い口調からは怒りは感じられなかった。

「右近様如何いたしました?」

何が起こっているのか分からずに不安に思う気持ちと

何が起こっているのか知りたくて興味津々の様子が
合い混ぜになり

右近を見上げていた。

「村へ下りる」

自らに言い聞かせるかの様に
一つ大きく頷き室内へと戻った。

部屋外では女官達のざわめきが
聞こえてはいるのだが
気になることがあるのか

折り畳んだ文を再び広げた。

広げた文に手を翳すと
墨とは別の文字が浮かび上がる。

「さて、どうしたものか」

袖下に収めた矢を取り出し
片手で折り曲げる。