幾千の夜を越え

家には葵の姿がなかった。

それどころか
まとめられていた荷物もない。

予想通りの光景に
私服に着替える時間も惜しみ
慌てて家を飛び出していた。

マズイ!

理由は解っていた。

今朝からの俺の勝手な行動だ。

学校もサボった…。

葵の目覚める前に家を出て
学校で顔を合わせる事なく
放課後に美術室に向かう。

一切の説明もなく
放っておいたからにならない。

約束したんだ。
絶対に離れないと…。

今日の態度は避けている様だったいや、実際避けていたのだろう。

葵が欲しかった。

産まれてきて一番の望みで
唯一の願いなんだ。

今更…、
過去の人間に邪魔されてたまるか

やっと手に入れた。

俺の元にきた。

誰が手放すかよ!

革靴に制服と
動きも制限され走り辛い。

にも関わらず
こんなに速く走れるものなのかと思うほど懸命に足を動かしていたそれでも俺の気持ちは更に急かしもどかしく苦しい。

葵が誰であろうと…。

尊が誰であろうと…。

今の俺は右川慎輔で
右近なんかじゃねえ!

過去に縛られてたまるか!

俺が守りたいのは神野葵だけで
尊なんかじゃねえんだ。

葵が愛しくてただそれだけだ。