「お忙しい所すみません」
青山との事があったその日の放課後、
「別に。久しぶりだな、黒崎先生とこうして喋るのは」
青山花の父親、青山想を呼びだした。
店内にはクラシックの曲が会話の妨げにならぬよう静かに流れている。
この曲は確かベートーベンの
「妊娠した事聞いたか?」
瞳をキラキラさせたウェイトレスに注文を頼むと
すぐに話を切り出してきた。
「はい。今朝聞きました」
「そうか。おめでとうと言うべきなんだろうな」
おめでとう・・か
「何だ、あんまり嬉しそうな顔してないな」
この人は本当に人間をよく見ている。
「正直、分かりません」
「何が?」
俺は・・俺は・・
「父親の存在を抹消して生きてきました」
よみがえる、幼い頃の記憶。
暴力でしか権力をかざせない父親に
いい思い出は残っていなく
ただ残っているのは
あまりにも辛すぎた生活だけだった。
そんな俺が
父親になんて本当になれるんだろうか
「なるほどな。」
話を最後まで聞かなくてもこの人には何もかも全てお見通しのようだ。
しかし出てきた言葉は
「でもさ、誰だってそうなんじゃないのか?」


