名前を呼ばれて診察室のドアの前に立ち
一つ深呼吸をすると
まだかすかに震えている手でドアを開けた。
「失礼します」
「こんにちは」
迎えてくれたのは優しそうな男の先生が
右手にボールペンを持ち
あたしに笑顔を向けている。
「宜しくお願いします」
お辞儀をしてから院長の前に置かれた椅子に座った。
「検査結果ですが、おめでとうございます」
カルテを書くのを一時やめてあたしの目をしっかり見つめる。
おめでとう・・ってことは
「あの、妊娠しているんですか?」
分かってるけど、未だに信じられない気持ちが大きくて
ついそんな事を聞いてしまう。
「はい。とりあえず、検査しましょう」
「これが赤ちゃんですよ」
モニター越しに見るそれは
まだちゃんとした形ではないけれど
でもしっかりと存在していて。
「これが・・赤ちゃん・・」
そして・・
ドクドクドク
先程から大きく鳴る音は
明らかにあたしのではなく
「今のこの音は赤ちゃんの心臓の音です」
一生懸命生きている音
ここで頑張って育っているという事を証明しているようで
何だかたまらなく嬉しくなる。
「では来月来て下さい」
妊娠初期の検査は月に一度。
本当にそんなので赤ちゃんが育っているのか心配になるけど。
検査が終わったと同時に貰った赤ちゃんの写真。
これが・・あたしの赤ちゃんなんだって
まだ実感が湧かない。
興奮が治まらない。
何よりも温かい気持ちになって。
この事を早く先生に伝えたくて
駅に続く道をなるべく急いで歩いた。


