「ホントに駅まででいいの？」
穂乃ちゃんを送って行く車の中。
雨は、まだ止むことなく降り続いている。
「はい、親に迎えに来てもらうので…」
「そっか…」
助手席には制服を着て、髪をおさげにしてメガネをかけた、いつもの穂乃ちゃんがいる。
あと少しで駅に着く。
「来週は手話教室にちゃんと来いよ」
「あ、はい」
「それから…俺と話すときには敬語使わなくていいからな」
俺は、穂乃ちゃんをチラッと見て言った。
「はい…じゃなくて……うん、わかった……。あっ！阿川さん？」
「ん？」
「阿川さんのこと"咲哉さん"って名前で呼んでいい？」
「あぁ…いいよ」
俺がそう言うと、穂乃ちゃんは恥ずかしいそうにハニカンだ。
ただ、名前で呼ばれただけなのに……。
好きな子から名前で呼ばれることは初めてじゃなかったのに……。
穂乃ちゃんから"咲哉さん"と呼ばれた時、俺の胸は"ドキドキ"していた。
