気付くと…俺は……。
傘を放り、彼女の手を引っ張って、この手で強く抱きしめていたんだ――。
彼女の体は雨に濡れて冷たくて…震えていた。
「……どう…して…」
顔を上げた彼女はそう呟いた。
「……風邪……風邪ひいちゃうと…いけないから…」
そんなの言い訳だった。
だって……俺は…彼女が――。
「……阿川さんも…風邪ひいちゃう……」
「俺は…大丈夫…」
だって、キミの温もりを感じてるから……。
「送って行くから…帰ろ?」
「……やだ…」
彼女が小さく呟いた。
「えっ?」
「こんな雨に濡れた姿で帰ったら心配されちゃうから……。コンビニがあったらそこで降ろして下さい。服が乾くまで雨宿りするから……」
彼女が慌てたように笑いながら言った。
「わかった……」
彼女が"やだ"と呟いた時、一瞬、彼女の顔の表情が強張ったのを見逃さなかった。
彼女の家庭に何か問題でもあるのだろうか……。



