「最後にもうひとつ」
遠ざかり、少し聞きにくくなった男の子の声。
男の子は声を張り上げて言った。
「俺、東中のクサカ タクミ。来週は時間ギリギリになんか来るんじゃねーぞ!
じゃあな!」
そう言うと、男の子は夕日にも負けないくらいの笑顔を見せ、次は振り返ることなく走っていってしまった。
あたしはもう呼び止めることはしない。
来週になればまた彼に会える。
そして、物語のページを1枚1枚捲るように、
彼のことを1つ1つ知っていければいい。
あたしは真っ直ぐ前を見た。
小さくなる男の子の背中。
オレンジ色の空。
あたしは差し出した手と本を
ドキドキの止まらない胸に押し当て
図書館で彼に話しかけている、自分の姿を思い描いていた。
【END】

