「どうしてそのようなことが・・・」

「読書の邪魔をするな」

聞きたいことがたくさんあったのに、ユーリはそのひとことで、書斎から追い出されてしまった。

むっとした面持ちで廊下に出ると、クリムゾンが窓を磨いていた。

「片付けが終わったのなら、次は庭掃除な」

王子の側近中の側近が、こんな雑用をしているのだから、文句は言えない。

ピカピカに磨き上げられた窓を横目に見ながら、ユーリはしぶしぶうなずいた。

(読書の邪魔をするなと言うのなら、食事の時間はどうだろう?)

イリアは一人で食事をとる。

給仕はユーリの役目だから、二人きりで話す機会もないわけではない。

「一番年少の第四王子が命を狙われるのは、おかしくないですか?」

「お前には関係のないことだ」

翌日の晩餐の席で思い切って訊ねてみたが、半ば予想していたとは言え、取りつく島のない反応に、ユーリはますますむっとした。

ふてくされてそっぽを向いた小姓を、ちらちらと見ながら、侍女たちが料理を運んでくる。

イリア王子が連れてきた少年は明らかに「わけあり」なのだが、第四離宮で働く者たちが、それを口にすることはない。

ただ、少年の美貌だけは、どうにも無視することが難しい。

天上から舞い降りた天使もかくやと思わせる高貴なオーラをまき散らし、大国の王子を前にして、気後れするところがない。

無口な王子がいちいち反応を返していることだけでも奇跡に近いのだが、そんなことは、きっと思いもよらないのだろう。