「お前だってユーリを愛しているはずだ! 俺と同じ立場になれば、きっと同じことを・・・」
「すると思うか?」

クリムゾンは、かつての同僚の言葉を鼻で笑った。
どうして人は、強者の側に回った途端、おかしくなってしまうのか。

「グノー、俺を絶望させないでくれ。本当は取り返しがつかないことをしたと思っているんだろう?もう気づいているはずだ。地下通路の兵を動かしているのはイリア様だ。こうして国内で小競り合いをしている間に周辺国がこぞって攻めてくる。イリア様は筋書を変えた。滅ぶのは王家だけじゃない。この国も一緒に滅ぶんだ」

「なぜ、そこまで・・・」

「憎んでいるからだ。絶望しているからだ。そして恐らくは、ユーリを守るためだ」

「俺か!? 俺のせいなのか? 俺がユーリを・・・」

グノーは崩れるように膝をつき、すがるような眼を相手に向けた。

「助けてくれ、クリムゾン! 俺はもうどうなったっていい! だが、自分のせいで国が滅ぶなんて!」

(そんな風に考えられるお前は、イリア様よりはるかに恵まれているんだよ)

クリムゾンは思ったが、敢えて言葉にはしなかった。

憎しみ、残虐、狂気、果てのない欲望・・・。
物心ついた時から、人間の汚い面だけを見せつけられてきた少年が抱えた心の闇。
その闇を払えるものが、もしいるとしたら、それはきっとユーリだけだ。

「何とかしたいなら協力しろ。お前に調べてもらいたいことがある」

クリムゾンの言葉にグノーが深くうなずいた時、あわただしく扉を叩く音がした。

「グノー様、大変です!武器庫に火がかけられました!」

あわてて立ち上がったグノーが、扉にかけた手を止めて振り返った時、クリムゾンの姿は消えていた。